冬みかんを食す。

 冬みかんと灰色の空というのは、たいがいセットになっている。
 冬みかんを食すと急速に空の色が変わりだす。
 薄いながらも、なんとか青かった空が、あっという間に灰色だ。

 自殺者が増える。

 危ない人はできれば、冬みかんだけは食さないほうが良い。
 冬みかんを食すと青空はまっさかさまに灰色の空になる。
 その灰色の空は、青かった空である。

 これがいけない。

 冬みかんは空の色を変える。
 自殺者はみな、冬みかんを食しているのである。
 家には食しかけの冬みかんが、ダンボールで残っているはず。

 もしかすると、それを踏み台にして首を吊った人もいるかもしれない。

 冬みかんのダンボールは頃合なのである。
 炬燵に入って、冬みかんを食す。
 テレビを観て、笑う。

 あまりにも……。

 僕は、冬みかんが好きだ。
 テレビも観ないし、炬燵もないけれど、冬みかんは食す。
 冬みかんは小さいのが良い。そもそもが冬みかんは小さいのだ。

 冬みかんの小ささこそが、すべての不安の種なのである。

 冬みかんは幸せだ。
 冬みかんは優しい。
 冬みかんは温かい。

 そういうものは、いつだって、大勢の人を殺しているのだ。