目を覚ますとカエルだった。

「ゲ、ゲコー!」

 か、か、カエル……。
 ありえない……ありえない。
 あ、二回言っちゃった、あはー。
 ありえないって二回言っちゃったー。

「お母さーん、なんか、カエルがゲコゲコ言ってるよー」

 言えてない。
 やばい、ありえないとか、オレ、言えてない。
 オレ、「ありえない」の代わりに「ゲコ」って言ってる、絶対そう。

「ゲコ」
「はいはい、お兄ちゃん、ハエ、ハエでしょ、ハエを欲してるんでしょ?」

 いらねーよ、カエルじゃねーんだぞ、ボケが。
 え、ていうか、なに? 妹とかおまえ、人間なの、そりゃないよ。
 いやー、笑えるなー、兄ちゃんはカエルだぞっ♪

 いやぁ、まぢでハエ食いてぇ。じゅるりだよ、ハエ、やばい。

 すげぇ、理性的なにかがオレを止めてる、ありえねー。
 まじ、カエルってないよなー、なんぼなんでも酷すぎるよー。
 ガマパックンじゃねーんだぞ、動物奇想天外かよ、ありえねー。

「ねー、お父さーん、お兄ちゃん食べてもいーいー?」

 食ぅなよ。そりゃないっすよー。
 ていうか、おまえはお兄ちゃんを食うのか?
 なに、カエルが食いたいだけ? あー、カエルでタンパク質を補給かよ。

 それとも、おまえ、そりゃあ、もしかして、兄ちゃんのことが……。

「いっただっきまーす!」
「ゲッ! ゲコー!!」

 オレ、暴れる。
 兄ちゃんのことが好きなのか……とか、そんな余裕ねぇ。
 危ねぇ、洒落んなんねー、食われるとかねー、食材やべー。

「じたバッた、すっルッなよー♪ せいきまつがクッるぜー♪」

 シブがき隊……朝から飛ばしてるなぁ、天晴れだよ。
 オレは朝起きるとカエルになっていて妹に食われて死ぬ。
 そんなの、しどいです……でも、ちょっと嬉しいかも、感じるかも……。

「おー……おーい……」

 ん?

「お兄ちゃーん、気付いた?」
「ああ、はいはい」

 俺は妹の声に気付いてソファに座りなおした。

「なに? いま、すっごい恍惚とした表情してたよ? きもちわるぅ」
「うんうん、わけ、訊きたい?」
「訊きたい訊きたい」
「カエルを喰うお前に萌えてた」
「キモスッ!」

 妹がカエルを右手に持ったまま俺から飛びのいた。
 カエルが妹の右手の先で俺に腹を見せながら「バンザイ」している。
 やばい、カエル、カワユス、アンド、妹、ギザカワユス。

 俺、テラキモス。

「いや、実は朝起きたら俺がそのカエルになっていたら……」
「たらいたら?」
「そして、妹に喰われかけたら、どうだろう、と夢想していた」
「…………」
「まあ、おまえも、カエルをお兄ちゃんに見立てるごっこをしてたわけで」
「うぅ……」
「おまえも、き・も・い・ぞっ、はぁと」

 妹は右手のカエルを見て「しょうがねぇよな」って感じで五秒ほど観察した。
 そして、俺の目を見ながら、左の人差し指でカエルの腹を撫でる。
 なんかすげぇ満足そうな顔してる。わが妹ながら、意味不明だ。

「あぁーと、ねぇ」
「なに?」
「まあ、ここまでは五分五分の勝負としましょう」
「うんうん」
「んで、その喰われる状況でどうしてお兄ちゃんは恍惚とするわけ?」
「…………」
「…………」

 やべぇ。

「うむ、人の業とはカクも深き……」
「黙れ」

 まあまあ。
 落ち着いて。

「なんちぅか、そういうこともあるよね」
「ないないない」
「恋じゃないっ♪ 愛じゃないっ♪」
「シブがき隊じゃないから」
「でも止まらない♪」

 そう、止まらないのだ、恋でも愛でもないが、喰われ願望は止まらない。

「いやー、お父さん、カエルがいると兄妹仲も円満ですね」
「あはっはー、そうだね、お母さん、あと、シブがき隊もグッド」

 日曜日の朝、カエルが家にいる情景とはこのようなものである。