「なんで誘ったの?」
 彼女は微笑みながら、僕の答えを楽しむかのように言った。
「酔ってるの?」
 僕は彼女をちらりと横目で見て、言う。
「酔ってるのよ」
 彼女は笑った。本当に酔っているようだった。
「こっちを向いて」
 僕は言われるままに彼女の方を向いて膝を揃えた。
「これってお遊びなんでしょう?」
 彼女が僕の目を見据えて、そう、言った。

 彼女の目は少々不安げだったが、それを忘れるほど彼女の口元が可愛かった。
「仕事じゃないね」
 僕はそう言って身体をカウンタに戻すと、マティーニを口にした。

「面白いわねぇ、あなた……」
 彼女はそれ以上何も訊かずに、僕と同じようにゆるゆるとその可愛い口元へとグラスを傾けた。彼女は一杯目と、いま飲んでいる六杯目にジャック・ダニエルのストレートを注文していた。僕はそんな女性にはいままで出会ったことがなかったので、実のところ、少し緊張していた。

「おいしい?」
 僕はちょっとした好奇心から、そう、彼女に尋ねてみた。
「おいしい、ですって?」
 彼女はけらけらと笑いだし、そのまま1分ほど笑っていた。
「大丈夫?」
 大して心配ではなかったけれど、僕はいちおう、彼女に気を使った。
「『ダイジョウブ?』」
 そう言うと彼女はまた笑いだし、最後にはかすれた声で「まあね」と言った。

「なにが、そんなに面白かったの?」
 僕は彼女が落ち着くのを待って訊いた。
「だってあなた、考えてもみてよ、なかなか面白い男の人とバーに飲みに来てるっていう清楚な女の子がよ、はじめの一杯と頃合の一杯にジャック・ダニエルのストレートを注文して飲んでいるのよ。ここまでわかる? 理解できる?」
「うん、清楚な女の子、なるほど」
 僕の「そうだね……」という怪訝そうな呟きを無視して、彼女は続けた。

「おいしいわけがないじゃない」
「そういうものなのかな?」
 僕は本当に興味があって、彼女に訊いた。
「そういうものなのよ。まあ、いわばジャック・ダニエルは女の敵ね」

「へぇ……」
 僕は彼女のその言い草に実に感心して、少しの間、その台詞の語感に酔いしれた。
「他にご質問は?」
 彼女は親の仇かのようにジャック・ダニエルを飲み干すと、僕を下から覗き込んだ。
「じゃあ、なんで君はジャック・ダニエルを飲むのかな? 好戦的なの?」

「それは、なかなか良い質問だわ」
 彼女は微笑んだ。
「だってあなた、そういう女の人って嫌いじゃないでしょう?」
 しれっとして彼女は言った。
 まあ、確かにそれはその通りだった。

「そうだね」
「あなた、変よ」
 彼女は口を尖らせて僕を睨んだ。
「そうだね」
 僕は頷いた。
「だからなんだけどね」
 彼女はそう言って、ブラックルシアンを店員に注文した。

「君も変だよ」
 僕は彼女に言った。
「変な女って、嫌いじゃないでしょう?」
 彼女はそう言って、笑った。
 まあ、確かにそれもその通りだった。
「まあね」

「それで、なんで私を誘ったの?」

 今度は僕がけらけらと笑った。